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ヴァンデグローブとは……フィニッシュした者にしか解らない?

2月11日。白石康次郎の〈DMG MORI Global One〉がフィニッシュしました。
……って、1週間前の話ですが。

今日、『Kazi 4月号』のヴァンデグローブ記事の最後の最後の校正があって、一段落。
というタイミングで、こちらにも後始末的な記事をアップしとかなきゃ、と思いまして。

最終艇フィニッシュの記事は→こちら

白石康次郎フィニッシュから1週間

コージローのフィニッシュ当日は、こちら、

でもほぼ実況状態でした。

今か今かと盛り上がってはいたんだけど……。
Youtubeライブで動画配信されていたフィニッシュの模様は、想像していたよりアッサリしておりました。

Finish live Kojiro Shiraishi Vendée Globe 2020-2021 [EN]

あっさりっていうか、よく分からないというか。
走っている本人も、いつフィニッシュしたか分からなかったんだそうな。

その3時間前に15位でフィニッシュした〈LA MIE CÂLINE – ARTISANS ARTIPÔLE〉(アルノ・ボワシエール)のフィニッシュ中継はもっとグダグダな感じだったので、あれでもアジア人初のヴァンデ・グローブ完走ということで、なんとか盛り上げてくれた方なんでしょう。

フィニッシュの瞬間は

昨年11月8日のスタートから94日と21時間32分56秒、33艇中16位。
94日ですよ。94日間1人で走り続けるって、どんな感じなんだろうか。

フィニッシュ直後、現地で行われた記者会見はこちら。

Conférence de presse de Kojiro Shiraishi (DMG Mori Global One)

フランス語に通訳が入るので、かなり遠回りな印象ですな。

この後、2月12日に日本のメディア向けにオンラインで記者会見が開かれました。

そこでは、フィニッシュについて、
「ヴァンデグローブに参加した人にしか分からない感情」
と語っています。

なるほどねぇ。
3ヶ月に渡って1人きりで走り続けた彼のフィニッシュ直後の心境というのは、そりゃ確かに本人にしかわからないんでしょう。

当方としては、この3ヶ月自宅でネットから得た情報を元にした記事──こういうのを “こたつ記事” という──を書き続けてきたわけですが。
ヴァンデグローブというのは、競技の最中を直に見ることができない “観るプロスポーツイベント” としては、きわめて珍しい種目といえます。無観客がデフォなわけだから。

となると、フィニッシュの雰囲気くらいは生で感じたいところだけれど……。あ、ボルボ・オーシャンレースのストップオーバーは何度か取材に行ったけれど、あれもスタートに合わせて取材日程を組むので、フィニッシュの瞬間って見たことないか。

ここは、想像してみます。ヴァンデグローブとは何なのか。

なんたって1日24時間が3ヶ月、1人で走りっぱなし。それも、走り続けて同じ場所に帰ってくるわけですよ。
A地点をスタートしてB地点フィニッシュするレースならば、 “移動する” という意味があるわけで。どこか遠くへ行きたいというのは、誰にもある本能でしょ。航海への憧れはそこにあるはずで。
ところがこのレースには、それが無い。

3ヶ月も走り続けてどこにも寄らず同じ所に戻ってくるというのは、どこか僧侶の修行のような “苦行” ともいえるんじゃなかろうか、と思うわけ。

実際フィニッシュしたセーラー達のコメントを見ていると、どうも順位にはあまり執着していないように見えるのです。走り切ってフィニッシュしたことで、何かを悟ったかのように。

フィニッシュ時間もいい加減

こたつで記事が書けるのも、レース主催者が読み切れないくらいの情報を出してくれるから。

……なんだけど、主催者側でも、どうも順位についてはあまり厳格に考えていないようにも見えるのです。

公式webサイトのRankingページの表記がどうにも謎が多く、今回は救済タイムもあったので原稿を書くのがもう難しくて。

こちら、公式webサイトのRankingページ。のフランス語版。

クリックすると拡大します

フィニッシュ時間は、ここではUTC(世界標準時)になっています。……ということすら明記していないけど、記事ではフランス時間で書かれており、そこからするとこれはUTCです。

しかし、『レース公示』や『帆走指示書』を読むと、正式なフィニッシュタイムはフランス時間になるはず。

『レース公示』には、

6.2 
Times will be expressed as follows:
• Ashore, which includes operations at the start and the finish, in local time;
• At sea, in UT.

とあり、「local time」というのは曖昧だけど、『帆走指示書』では、

1.2 Official time: all times in these Sailing Instructions and on the noticeboards will be:
・Ashore, for start and finish operations, in local time, in other words:
・UT + 2 up to and including 24th October 2020 and from 28th March 2021
・UT + 1 from 25th October 2020 until 27th March 2021
・At sea, for operations other than those set out above, in UT.

と、これは明確にフランス時間(CET:中央ヨーロッパ時間)のことになります。
(+2時間は夏時間)

そのうえ、フランス語版ページだと、24時間表示とAM/PM表示がごちゃごちゃになっていて……。
極めて分かりにくい。英語版だともっとまともなんですけど。

さらにこれ、上部に救済タイムに対しての記載がありますが、「16時間15分」を「4:15 p.m.」と記載するのはなんなのよ……と。
最初はニュースでの記載もこうだったのです。

さらに細かい事を言うと、救済タイムについて。
公式のジュリーの裁定は、

「The international jury by majority decision gives redress to
FRA17 as follow: The finishing time of FRA17 will be the time
she finishes less 10h15 hours.」

「16/12/2020 – Juri hearing decision」
decisions-jury-vg20-20201216.pdf
Documents | Vendée Globe 2024
All the information you need about the Vendée Globe 2024: skippers, rankings, maps and news about this solo, non-stop, non-assisted round-the-world race.

とあり、The finishing time を -10時間15分 にするということですよね。
所要時間(elapsed time)から-10時間15分ではない。

……のはずなんだけど。
公式webサイトのRankingページの記載は、実際のフィニッシュタイムのままです。となると、やっぱりこれが正式なフィニッシュタイムになるんでしょう。

ここ、記事を書く立場からすると結構重要なんだけど。
参加艇から文句が出ていないところをみると、どうも主催者も参加艇も、順位にはあまり頓着していないのかな、と最後の最後に思うに至ったわけです。

解脱者達

などなど、いろいろ考えると、やっぱりどうやら、ヴァンデグローブにはヨットレースを越えた何かもっと孤高な、走ったことがないワタシらには分からない大きな意味があるのかも。

コージローなんか、26歳のときにすでに単独無寄港世界一周を達成しています。
それも、伊豆松崎港 発~着の無寄港ですよ。なんか地味。

松崎港にある記念碑

でもこれ、地理的にも天候的にも、西ヨーロッパ発着の無寄港世界一周よりも厳しい条件といえます。
実際時間もかかっていて、176日ですよ。ほぼ半年走り続けてどこにも寄らず同じ地味な西伊豆の港に戻ってきたわけで。26歳の若者が、1人でですよ。

彼はあのときすでに悟りを開いていたのかも。言動が普通の人と違うもんなぁ。

その後の世界一周レース、2002年の「アラウンドアローン」も2006年の「5オーシャンズ」も、「BOCチャレンジ」の名を変えた寄港型の世界一周なんで。
ヴァンデグローブは1994年以来の “無寄港” 世界一周となり。前回はディスマストでリタイア。そして今回は様々な苦難を乗り越えてのフィニッシュ。2度目の解脱。最終解脱者ということになるのか。
1994年の無寄港世界一周と違うのは、それがレースであるということ。
そのあたり、自身の中でどう違うのか。直接本人に聞いてみたいと思います。

レース直後の矢部カメラマンによるインタビュー記事やIMOCA60のフォイル分析(by永井潤)が掲載される『Kazi 4月号』は、3月5日発売です。
また、4月のボートショーでもトークショーを行う予定です。続きはそのときに。

THE GLOBAL SOLO CHALLENGE

僧侶の修行はお金がかからない……はずだけど、こちらヴァンデグローブはスタートラインにつくのにお金がかかります。
そこで、より低予算でできる修行……じゃない単独無寄港世界一周イベントが予定されております。

その名も、「THE GLOBAL SOLO CHALLENGE」

Global Solo Challenge, Single-handed, Around the world, Non-stop
The Global Solo Challenge is a single-handed around the world sailing Event, without outside assistance, non-stop, by the three great capes.

2023年の秋、スタート/フィニッシュ地点はスペインのどこかのもよう。
全長とIRCのハンディキャップを用いて6つにクラス分けをし、9月2日から10月28日までクラス毎に時間差でスタートし、フィニッシュはクラス関係無く着順勝負というもの。

修行したい人はまだまだいらっしゃるようです。

これが観るイベントとして盛り上がれるかどうかは、どう報じるかになりますか。

外洋レースは昔から無観客試合だったけれど、衛星通信の普及で遠くの海を走っているレース艇を追うことができるようになり、新しい時代を迎えているのです。

最終艇フィニッシュの記事は↓こちら

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