9月30日をもって、19都道府県に出されていた緊急事態宣言と8県に出ていたまん延防止等重点措置が全て完全解除されるんだそうで。
となると2022年のヨットレースはどうなるのか。
一番気になるのはジャパンカップ。
2017年に相模湾で開催されて以来、
2018年は参加艇3艇で開催中止。
2019年は開催見送り。
2020年も開催見送り。
2021年は外洋ダブルスの公示が出たものの、これはジャパンカップではないわけで。開催見送りの報も無し。
つまり、コロナ関係無く、ここ4年開催されていません。
この「ジャパンカップ」とは、
『JSAF運営規則』で、
ジャパンカップとは、日本における外洋レースの最高峰に位置づけられる歴史あるレースである。年間に一度開催されて、その年の外洋艇の選手権を競うレースである。
https://www.jsaf.or.jp/race/2016/kounin/08.pdf
と定義されている。
……んだけど、なにをもって「外洋レースの最高峰」と定義するのか。これがなかなか難しい。
外洋レース自体が時代に連れて変化しているので。ルールというか定義というかがついていけていない。
じゃあどうするか。
例として、ORCのワールドチャンピオンシップがどのように開催されているのか調べてみた。
世界選手権 2021
「ALEXELA ORC WORLD CHAMPIONSHIP 2021」(August 6-14, 2021 Tallinn, Estonia)
として、この夏、エストニアで開催されています。
エストニアってどこよ?
と思うでしょ。地中海に面した旧ユーゴスラビアのどこか? と思ったらまったく違いました。北ヨーロッパのバルト海に接して対岸はフィンランドという、寒そうな国ですね。もちろん行ったことはありません。
大会webサイトは↓こちら
日程は、
Day 1, 21/08/06(金) – Registration and measurement
Day 2, 21/08/07(土) – Registration and measurement
Day 3, 21/08/08(日) – Registration and measurement, Practice race, Opening ceremony
Day 4, 21/08/09(月) – Long offshore race
Day 5, 21/08/10(火) – Long offshore races continued
Day 6, 21/08/11(水) – Inshore race(s)
Day 7, 21/08/12(木) – Inshore race(s), Sailors’ Dinner
Day 8, 21/08/13(金) – Short offshore race
Day 9, 21/08/14(土) – Inshore race(s), Closing ceremony
と、かなりコッテリしてます。初日にいきなりロング・オフショアですよ。でもこれが、現在ORCが出しているグリーンブックとNoRガイドのままですね。
グリーンブック(ORC Championship Rules)は、IOR時代から続く伝統のルールです。
ルールというか、「外洋レースの最高峰」……を定義した文書とも言えるか。
手元に1995年版のグリーンブックがあるんですが、この年の6月にIORワントンの全日本選手権が開催されたIOR最後の年です。改めて見ると、レースフォーマット(日程)はこの頃からほどんど変わってませんね。
1995年版では、「6 . Programme for World Championships」としてルール内に明記されていますが、今のグリーンブックでは別掲の『Standard Notice of Race』への記載になっています。
「ALEXELA ORC WORLD CHAMPIONSHIP 2021」のNoRは、こちら、大会公式掲示板(ONB)から。
ほぼ『Standard Notice of Race』のままですが、ロングオフショアのコースがはっきりとは分かりません。結果を見る限り、
クラスAのTP52で22時間から23時間。
クラスBのX-41で24時間から28時間。
クラスCのIMX-38で23時間。
なので、クラスによってコースの長さが違うもよう。
レース結果は、↓こちら
ORCが定める『Standard Notice of Race』では、ロングオフショアは最も遅い艇で30時間-36時間。ショートオフショアでは10時間-12時間となっているので、標準よりもやや短いレースだったということになります。
地図を見る限り、開催地のタリン(エストニア)から対岸のフィンランドまで30マイルくらいしかないようなので、オフショアというより、コースタルレースみたいな感じなのかも。
スコアリングは、ORC InternationalのPCSで。OSRはカテゴリー3。
PCSってナンですか? みたいなのはまた別の機会に。
クラス分けはORC証書にあるCDL値で、以下の3クラスになっています。
これはNoRで定めたもので、全参加艇を3つに分けたものではありません。各参加艇はそのクラスにエントリーするということ。これ、意外と重要。
というところで、各クラスを見ていきましょう。
クラス A: 16.400 >= CDL > 11.590
スワン45からTP52まで8艇がエントリー。約1時間のインショアレースでトップ艇と最終艇のフィニッシュ時間差はおよそ10分。
5分毎にスタートした場合の1クラス上の艇団がどのくらい遠くにいるかをイメージすれば、かなりの時間差と納得できるかと。それをハンディキャップで修正して勝負するわけで。
このあたりの “トホホ感” は近年のジャパンカップと同じような感じってことか。いや、それ以上のトホホのホと言ってもいいか。
どんな艇が勝てるのかというと。
優勝した〈Halbtrocken 4.5〉(MILLS 45 CUSTOM)はなかなかカッコ良さそう。イマドキのレーサーはこんな感じと思えばいいのか。TP52の5分後くらいにフィニッシュしてます。
クラス B: 11.590 >= CDL > 9.770
FIRST 40.7やX-41あたりから、FARR 40 ODなんかで34艇。
こちらも約1時間のインショアレースでトップと最終で10分くらい離れてます。いや、20分離れているレースもあるなぁ。ここは艇種の性能差もさることながら、乗り手のレベルもだいぶ違うもよう。
ちなみに、3クラス違う海面でレースしているようなので、これでも次のレースは回せるってことでしょう。
優勝の〈ESSENTIA44〉は、GRAND SOLEIL 44 P。っていわれてもどんな艇だかピンと来ないけど。
なかなかカッコ良いです。
2位は、CLUB SWAN 42。3位はX-41で。
実際のレース展開は、たとえば第6レース(W/L)では、〈KATARIINA II〉(CLUB SWAN 42)がトップフィニッシュで修正2位。3秒遅れで〈INTERMEZZO〉(LANDMARK 43 MOD.)が入るも、修正で5位。
4分41秒遅れで入った〈OLYMPIC〉(X-41 MOD)も修正で同5位になってますから、やはりちとトホホなレース展開といっていいかも。
で、1分33秒遅れで4着フィニッシュの〈ESSENTIA44〉(ROU 1044)がこのレース修正トップ……てな感じ。
クラス C: 9.770 >= CDL > 8.000
FIRST 31.7からX-35、一番大きい(CDL値大)SALONA 37あたりまで62艇。日本のミドルボートと性能的にはだいたい見合うか。
とはいえ、やはり約1時間のレースでトップ艇と最終では所要時間で10分以上離れてますね。
クラスCは60艇以上エントリーしているので、青と黄2つのフリートに分けた前半の成績でシルバー/ゴールド2つのフリートに振り分け後半戦。で、最終順位を出す。というフォーマットになっています。
で、J-112Eの地元〈MATILDA 4〉が優勝。
それにしても、これだけ艇数が多くて艇間の性能差が大きいと、スタートで容易に前に出られるCDLの大きい艇が有利になるようで。さらに、ちょうど艇が集まるような順番にハマるとマーク回航なんかですごく不利になりそう。このあたりは運不運。
—あと、クラス最小艇なら、ちょっと遅れてでも本部船寄りから出て即タック。クリア・エアでポツンと1艇最後尾から追うという展開も、結構あり。先行艇が風見代わりになるし。先行艇からすると、カバーしようが無いわけで。
とこれ、ジャパンカップでもよく見かけた光景です。–この部分10/5に追記
と、どのクラスも、着順に大きく差がある中でのハンディキャップ戦という “選手権らしくなさ” は、3つのクラス分けでは解消できてないと思われます。
これだけ参加艇数がいるのだから、もっと細かくクラス分けをすればいいのに。少なくとも、クラスCは2つに分けて、クラスDを作るとか。
コリンシアン
乗員全員が、ワールドセーリングのセーラー・カテゴリー1(アマチュア)のチームが、コリンシアン(Corinthian)。コリンシアンにもタイトルが設けられています。なんでCorinthianっていうのかは不明。 “アマチュアクラス” とはニュアンスが違うんだろうなぁ。
で、乗員全員がカテゴリー1って、かなりキビシイです。カテゴリー3(プロ)は2名まで、とかはワンデザインでも結構あったけど。
それでも、
クラスCは62艇中43艇がコリンシアンで、こちらは地元エストニア艇が多いもよう。
エストニアの非コリンシアン(プロや業者が乗艇)も結構いて、総合1位、2位、4位、5位はこれらエストニアの非コリンシアン艇。3位にスウェーデンのコリンシアン艇が入ってます。
クラスBは34艇中19艇がコリンシアン。こちらは地元エストニアのコリンシアン艇が、総合でも4位に入っています。クラスBは、近隣のフィンランド、デンマーク、スウェーデン、からのエントリーが目立ちます。
クラスAになると、コリンシアンはゼロ。8艇中5艇はドイツ。フィンランドが2艇、英国1艇となっています。
全クラス、コリンシアン、非コリンシアン、合わせても近隣の北欧国からの出場がほとんどなので、世界選手権というにはいかがなものか。
グリーンブック(のスタンダードNoR)では、艇数と国籍の合計が14以上でクラスが成立する、とあるので、クラスAは3ヶ国8艇なので世界チャンピオンとしては不成立ということか。逆に、1ヶ国から13艇ならオッケーなのか?
良く分かりません。
To assign a World Champion title in a class the number of boats plus the number of countries shall be not less than 14. If the minimum number of boats in a class is not met, that class can be grouped with the closest class. In this case, only one Championshiptitle will be assigned to the combined classes.
https://www.orc.org/rules/Standard%20Notice%20of%20Race%202021.pdf
JSAFのメイン・レーティングはIRC
以上、「ALEXELA ORC WORLD CHAMPIONSHIP 2021」は、ORC(Offshore Racing Council:外洋レース評議会)の世界選手権なんで。
JSAFのメイン・レーティングであるIRCはまた別ではありますが。参考までに調べてみました。
そもそも、上記ORC世界選手権の日程を日本で開催するのは無理。
なので、IRC版で外洋艇日本選手権のフォーマットは日本で作らないと。
それが難しいのです、というお話なんだけど。
・IRCの方は、シンプルにレーティングのルールであり、
・ORCは、チャンピオンシップのルールも制定している、
という違いなのかな、とも感じました。