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ヴァンデグローブ 続:ケビン・エスコフィエ生還

2020年11月30日。ケープタウンの南西約820マイルの地点で遭難し艇体放棄した〈PRB〉のケビン・エスコフィエ(40歳♂仏)。後続の〈Yes We Cam!〉に助けられ。さらにフランス海軍の軍艦に乗り移り、そして12月10日、陸(おか)にあがりました。

フランス海軍のフリゲート艦〈Nivôs〉とありますが、制服がどうもコーストガードっぽいですよね。で、ケビンもその制服を借りて、フランス領のレユニオン島(Réunion)に上陸です。

遭難から救助の展開は、公式サイトに逐一アップされてきました。

こちらでも、

また、セーラーでありヨット通訳としても実績のあるMayukoさんが日本語訳をfacebookにアップしています。
……って、うまく貼り付けできません。限定公開設定のもよう。

こちらでも。あらためてまとめてみます。

11/30 13:46 遭難

事故は11月30日の13:46(UTC)。

風速20kt-25kt、と大時化とまではいきませんが、5mの波というのはやはりかなりの時化模様です。

Onboard video – Rescue of Kevin ESCOFFIER (PRB) by Jean LE CAM | YES WE CAM! – 01.12 (2)

何かが見えたところで大きな音がし、何が何だか分からないまま、バウ(船首)が90度持ち上がった。ジャックナイフのように折れ曲がったということ。
このときケビンは外(out side)にいた、とありますがデッキというよりコクピットでしょう。そして船内に入ると海水が入ってきて3秒で電源がすべて落ちた、と。

グラブバックを持ち出すことができず、GPSだけ持って出た。
と言ってますが、GPSはイーパブのことかと。

こちら、遭難当日に流れた記事「Four Vendée Globe Skippers Are In The Zone To Help In Rescue of Kevin Escoffier」では、

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The positioning of Kevin Escoffier’s personal beacon (AIS MOB Man Over Board) emits HF radiowaves and will only be detected in the local zone.

https://www.vendeeglobe.org/en/news/20687/four-vendee-globe-skippers-are-in-the-zone-to-help-in-rescue-of-kevin-escoffier

等と記載があるのですが、ここたぶん間違ってますね。
そもそも、AISはHFじゃなくてVHFだし。
後の記事では、カーボン製の艇体なので船内でイーパブ(EPIRB)のスイッチが入っても電波は出ないと思って、なんて記載もあったので。

また、グラブバックを持ち出す余裕も無い状況で、サバイバルスーツを着る時間が良くあったなと思っていたのですが、サバイバルスーツも持ち出しただけで、ライフラフトの中で着たのかも。

ちなみに、グラブバックとは非常用の持ち出し袋で、外洋特別規定(OSR)に定められた安全備品です。
カテゴリー0だと中身は……と調べたら、無いなぁ。ライフラフトの備品と一緒になっているんですね。

いずれにしても、ライフラフトは何日も漂流するようには考えられておらず、短期間に救助して貰うというイメージでの艇体放棄なら、遭難信号を出すイーパブとサバイバルスーツを持ち出すというのはきわめて冷静、さすがです。

ライフラフトで漂流

ヴァンデグローブは初出場のケビン・エスコフィエですが、超のつくベテランの外洋セーラーです。

無制限世界一周最短記録のジュールベルヌ・トロフィー(Trophée Jules Verne)をとり、「ボルボ・オーシャンレース 2016-2017」で優勝と、フルクルー艇に乗り込む職業船員みたいな人ですね。

で、この遭難時にも、落ち着いて艇体放棄。
ライフラフトは自動的に開いていた、とあります。

ライフラフトはどこに搭載されていたのか。

だいたい船尾にあるのですが。〈PRB〉は見当たりません。
まあ、〈L’OCCITANE EN PROVENCE〉も、スマートに搭載されてますが、ちゃんと開くかちと疑問。

で、〈PRB〉は、おそらく、この写真の赤線の部分にちらりと見えているのがライフラフトかと。

このようにコクピット内に置くのが一番いいのかも。普段椅子代わりに使ったりして。
で、船尾が水没すれば自動的に展開する、と。

12/01 01:06 救助

そして漂流開始。

イーパブから遭難信号が出ている……とはいえ、ケープタウンから840マイル南西というと、ヘリでの救助は望めません。
すぐ後ろにこれまたベテランのジャン・ルカム(61歳♂フランス)〈Yes We Cam!〉がいたというのもラッキーだったと思います。

2時間の距離とありますから、30マイル以内でしょうか。で、たちまちライフラフトを発見。
……も、その頃には30kt-35ktと風速は上がっていたようで、60ftのレースボートを1人で操るわけですから、うまくライフラフトに近寄せることができません。
そりゃそうだよなぁ。あのサイズの艇だと、自艇の乾舷でラフトが見えなくなっちゃうだろうし。
これ、〈Yes We Cam!〉がフォイル艇だったら、さらに難しかったかも。へたしたらフォイルでライフラフトを突き破ってしまうかもしれないし。

で、声をかけた後一旦離れますが、そこで見失ってしまいます。フルクルーなら、誰かがずっとワッチしているということもできるでしょうが、こちらは1人。何か別の作業をしていたら、どうしても目を離してしまうわけで。

イーパブは人工衛星経由で遭難信号を出しているので、陸上の救難機関経由でフランスのレース本部に情報が送られ、レース本部と〈Yes We Cam!〉の間はスカイプで衛星通信、という状況だったようです。

で、ルカムからすれば、スカイプで話している間は誰が操船すんの? という話で……。

別の記事「Relieved Escoffier Speaks About His Rescue By Jean Le Cam」では。

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he was directed close to a locator beacon position

https://www.vendeeglobe.org/en/news/20722/relieved-escoffier-speaks-about-his-rescue-by-jean-le-cam

なんて記述もあるのですが。
無線設備の固有名詞がどうも曖昧なので、今一つ通信状況が分かりません。
夜になってしまいますが、「夜の方が灯りが見えるかも」と思ったルカムが外を見ると、確かに光が。そこに近づきます。最後は原始的。

これがまた良い感じのコースで近づいたんでしょう。おまけに満月の夜。よし、このまま行っちゃえ、ということに。
ケビンの方は「朝になるまで無理か」と思っていたみたいで、近づくルカムに「今?」と聞くとルカムは「うん、今」と。

最後は、ヨット側から投げ渡したライフリングをたぐって船尾から回収したもよう。

こちら、〈Yes We Cam!〉の船尾。古くさいデザインですが、ライフラフトから乗り移ることを考えたら具合よさそう。白い馬蹄形ブイも中央に見えますね。これを投げ与えたもよう。黒く見えているラダーのコネクティングロッドを掴んで乗り移ったとのことです。

とはいえ、波のある海面で、ほとんど止まっているヨットの船尾は、波をパンパン叩いて結構危険なのです。うまくタイミングを合わせてエイヤっと乗り移ったのでしょう。ここらも、ベテランならでは。

ちなみにライフラフトもコクピット中央に鎮座しています。これがお手本か。自身遭難して死にそうになっていますから、こういうのは生活の知恵か。

陸上本部では

この間、フランスの大会本部とはスカイプが繋がりっぱなしで、でもルカムはデッキにでているわけで。
大会本部側から呼びかけても、デッキでかざす懐中電灯の明かりがチラチラとスカイプの画面に映るくらいで、何がどうなているのかさっぱりわからず。かといって何もできず。

ハラハラしていたところで、急にルカムがニコニコ顔で画面に登場。バックにはサバイバルスーツ姿のケビンが映っているという、ドラマのシーンみたいな展開です。

12/5 レース中

無事救助されたケビン・エスコフィエですが、〈Yes We Cam!〉はまだレース中なんですよね。
さてどうするか。

Vendée Live #26 [EN]

大会本部側で、フランス海軍の軍艦を手配します。

12月3日の時点で、「昨日の午後ケルゲレン(Kerguela)島を出た」と言ってますから12月2日ですか。ケルゲレン(Kerguela)島は南氷洋の孤島です。北にあるクローゼ(Crozet)島に向かっている、というので???だったのですが、クローゼ島の北の洋上でタイミングをみてピックアップするということですね。

それにしても、こんなところにフランスの領土があるんですね。研究者が何人か滞在しているくらいとのことですが。となると、錨泊している軍艦は衣食住なんでも揃っていて、一番居心地がいいんでしょう。入り江は結構ありそうなので。

で、〈Yes We Cam!〉は、しばらく2人乗りの状態でレース続行です。

なんたって、救助の日は昼頃から捜索を続け、夜中にやっと助け出したわけで。その間ルカムは休みなしですよ。おお、っと見つけたと思ったら、1人でセール降ろしてメインセールをリーフして、エンジンかけて。そうだ、プロペラにはシールしてたんだ、とか、いろいろチェックして。
その間ケビンの方は、死にかけたとはいえライフラフトの中で待っているだけなわけで。

そして救助を終え、「レース中なのにゴメンね」というケビン。
「良いってことよ。俺も昔〈PRB〉に助けられたからな」とルカム。

とはいえ、この後、
「助けて貰ったんだから、俺がしばらくやっとくから、ルカムさん寝てて」
ってわけにはいかないんです。まだレース中だから。

食事を作る、みたいのもダメみたいですよ。
それぞれ自分の分だけ作って食べる、と。

12/6 〈Nivôs〉へ移乗

Transfer of Kevin Escoffier | Onboard video – Jean LE CAM | YES WE CAM! (2)

12月6日、迎えに来た〈Nivôs〉と洋上で落ち合い、無事トランスファー完了。
ケビンが着ているのがサバイバルスーツ。
これを沈みかけたヨットの上で着るの大変そう……と思ってたけど、持ち出してライフラフトの中で着たんでしょうね。中がビショビショになっちゃうだろうけど。そういうのは鉄人だからなんてことないかと。
ちなみに、南緯40度で12月初旬(初夏)ってことで、気温はそれほど低くなかったはず。

最初にラバーボートから引き寄せたのは、たぶんケビンが消費した分の食料でしょう。

12/10 上陸

そして12月10日、仏領レユニオン島(Réunion)まで送って貰い、無事上陸です。
あとは飛行機でフランスへ。

なんか、晴々してます。
辛坊治郎さんと扱い違うよなぁ。遭難して海軍のお世話になったってのは、どっちも似たようなものだと思うけど。仲間内であっといういう間に助けたから良いのか。
ってことは、やっぱジャン・ルカムがすごいな、と。

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